タリス・スコラーズ 結成50周年日本ツアー特別インタビュー〔後編〕

タリス・スコラーズの5年ぶりの日本公演に先駆け、結成50年を記念してのアジアツアー終盤、第52回香港アーツ・フェスティバルに出演していたアーティストを弊社スタッフが訪ねました。
香港で行われた3日間のコンサートでは、ルネサンス時代の作品から現代音楽までをそろえた<バースディ・プログラム>、ジョスカン・デ・プレからパレストリーナ、モラーレスからヴィクトリア、そしてアレグリの〈ミゼレーレ〉を含む<システィーナ礼拝堂の音楽>、<Darkness to Light>の3つのプログラムを披露し、いずれも満場の聴き手を魅了しました。(2024 年3月 香港にて)(聞き手・文:テンポプリモ)
前編はこちらから:タリス・スコラーズ 結成50周年日本ツアー特別インタビュー〔前編〕

人々を日常から解放し、歌が静けさへといざなってくれる-それがタリス・スコラーズの音楽(ピーター・フィリップス)

 

P=ピーター・フィリップス A=エイミー・ハワース R= ロブ・マクドナルド T=テンポプリモ

T:  今回、5年ぶりの日本ツアーのプログラムは、とっておきの2つを用意してくださいました。一つめはフィリップス氏がお気に入りの作品を集めた「結成50周年プログラム」。16~17世紀イギリスでオルガニストでもあったギボンズの「手を打ち鳴らせ」にはじまり、(ピーター・フィリップスは14歳の時にこの作品と出会ったと、後に述べていました)パーセルの9声のミゼレーレ、そしてエストニアの現代作曲家ペルトの曲まで並びます。
二つ目は「システィーナ礼拝堂からのひらめき」。500年以上にわたり歌い継がれてきたルネサンス期の偉大な作曲家パレストリーナやモラレスのミサ曲からは、異なる声域のポリフォニーによる澄んだ響きを味わえることでしょう。いずれのプログラムにも、天上から降り注ぐかの如く、カストラート*注1)の美しい高音を再現するようなアレグリのミゼレーレを含みます。
タリス・スコラーズの一員として、ポリフォニーの音楽を歌っている時、どのようなことに一番魅了されますか?

R:  まず第一に、私はこのポリフォニー音楽を特に愛しているということが挙げられます。明らかに私が関わってきた音楽、歌に関して、私自身がポリフォニー音楽にぴったりはまっている感じがするのです。音楽はもちろんのこと、歌の旋律や声に鼓舞され、とても魅了されるのです。そのすべてに自分自身の役割と共通点を見出せるのです。全てが私にとって喜びの経験であり、これらの音楽が私の居場所と感じるのです。
タリス・スコラーズの皆の存在ももちろんです。いつも新たな発見があるグループの存在が私にとっての喜びです。

P:  彼は(マクドナルド氏)しゃべるときの声もとても低いでしょう。パートとしては重宝されますよ。

(左)タリス・スコラーズ メンバー (右)ロブ・マクドナルド

T:  タリス・スコラーズの音楽を聴いていると、まるで天国にいるかのような錯覚に陥ります。

P:  まさにそれですよ。私もそう感じます。でも歌をきちんと歌わないとならないので、あまりうっとりしていられないですけどね(笑)

A:  ええ。私もロブが先ほど言ったことと同じように感じています。きっとメンバーの皆も同様だと思います。他で歌っている歌い手さんもおそらく同じだと思うのですが、メンバーと一緒に歌うことはこの上ない喜びです。それからもう1つ。私たちは9人のメンバーと指揮者のピーターで構成されていますが、皆で創っていくサウンドはとても特別なものと感じています。そしていつもお客様の反応をステージの上から感じて、お客様と一体になれることってやっぱり素敵なことだな、と思うのです。
私たちのレパートリーは多方面の音楽から成しています。この100年から500年前にヨーロッパで創られた作品や、たまにメキシコ音楽もありますが(笑)…。いわゆる”ニッチ”な時代の音楽を通じて、その時代に生きた人たちを感じることができるのです。貴重な体験だと思っています。また、音楽を愛する観客とその音楽をライブで分かち合うことで、その時代背景を共に感じることができることは特別だと思っています。

T:  貴重なお話しをありがとうございます。

ピーター・フィリップス

P:  さて、これは元々から私が熱望していることなのですが、私たちが歌っている音楽が、皆さんが普段聴いている音楽と何ら変わりがないことを世界中の皆さんに証明したいのです。タリス・スコラーズでうたう音楽は、ベートーヴェンやロマン派音楽などと変わりはありません。私たちが歌っているのは、コンサートで聴くための音楽、お客様にお届けするものであって、必ずしも宗教的な関係があるわけではありません。日本ツアーでは、各地の素晴らしいコンサートホールで歌うことができます。今までもずっとその様に思いながら歌ってきました。
今回の東アジアでのコンサートの数々は特に大切と考えております。なぜなら、おそらく聞く人たちはこの音楽の知識もなく、歴史的背景も知らず、言語も分からず、聴いてくれています。とはいっても、私たちもラテン語のエキスパートではないのですが(笑)。言語に関していえばそこまで深く知っていなければいけないこともないので。実はラテン語はいつも壁になるのですが、疑問の種にもなっています。言語と音楽の融合は、実はとても複雑な要素が相混ざります。なので、これは1つの私の観点に過ぎないのですが、全てを知る必要はないと私は考えています。ステージに立ち、今自分たちができる精一杯を観客に届け、素晴らしい音楽を創り出す、それが私のこれらの音楽に対する情熱です。

T:ありがとうございます。そうですね、日本ではキリスト教徒の人々の数というのは限られておりますので、宗教的な見地からですと理解に相違があるのかもしれませんが、音楽を純粋に愉しむという面では、あらゆる垣根を超えられるのではないでしょうか。

P:  あなたも同じように思っていらっしゃる。先ほど言われたように、私たちの音楽を聴いていると、まるで天国にいるかのように感じられるのですよね?

T:  そうなのです。

P:  それが私たちの狙いなのですよ。皆さんにその体験をしていただきたいのです。

P:  日々の慌ただしさの中で翻弄されている人々を日常から解放し、歌が静けさへといざなってくれるのです。

R:  そもそも一番初めに音楽が書かれた時代では、音をどのように形成していくかの論争の故に創られました。音楽が奏でられる全ての目的は、聴く人の記憶や感情を引き出すためにあるのです。聴く人は、音楽がどのように形成され、結合されているのかに重点を置いて聴いています。すべてそこに向かっています。

T:  さらに、タリス・スコラ―ズの音楽は、肩の力や気持ちのこわばりを抜いてリラックスさせてくれます。

P:  まさにその通りです。私たちもまたリラックスして歌いたいと思っています。お客様からは私たちがリラックスしているように映るかもしれないですね。お客様には容易に映るかもしれませんし、また私たちもそう思っていただいた方が良いステージになりますね。
ステージ上で余裕を持って歌うことは、普段の練習の成果だと考えます。まあ、実は2時間歌うことはリラックスできるようなことではないのですが。むしろ重労働でもありますよ。

T:  そうでしょうね。毎回のコンサートで高いクオリティの演奏をし、聴き手を天国にいるかの心地にいざなうのは、並大抵のことではないとお察しします。

(左)タリス・スコラーズ メンバー (右)エイミー・ハワース

タリス・スコラーズ メンバー

P:  ですが、プロとしては、お客様にとって魅力的に、魅惑的に、そして容易に見えるように演出する必要があるのも一つです。

T:  さて、メンバーの皆さんは、日々どのように声やのどの健康に気をつけておられるのか伺ってもよろしいでしょうか?

P:  ああ、それは皆さん苦労されていますよね。でも私は指揮者なのでありませんが(笑)

A:  そうですね、実は大人の私たちでも難しいことなのですよ。特にツアー中はね。ほとんど常に空調が効いた室内や機内で過ごしているとね。誰かが体調不良になると他のメンバーに連鎖してしまったり。そうなるとパートに穴が開いてしまうので、急遽他の人がカバーに入ることもあります。ツアー中になるべくそうならないように、睡眠や休憩を十分に取り、水分を欠かさず、また湿度が保てない時は、お湯を沸かしたところに頭にタオルをかけて湯気の中に頭を突っ込んだり・・・(笑)いろいろな工夫をしています。メンバーの誰かが体調不良になった時はお互いに看病しています。誰かが次の日にそうなるかもしれないということで、お互い様と考えています。

P:  睡眠と水分補給ですね。

T:  睡眠と水分補給、大切ですね。

R&A:  そうですね。

A:  それに時差ボケが重なると難しいのですが。。(笑)

T:  そうでしょうね。分かります。日本にいらした時は、十分な数のお水をご用意しますので。あと空調にも気を配りますね。
これから皆さんは、教会でのマスタークラスにお出かけですね。本日は朝早くからありがとうございました。久しぶりの日本ツアー、タリス・スコラーズの皆さんの歌声を楽しみにお待ちしています。

注1)ソプラノ、アルトの声域で16~18世紀にイタリアで活躍した美しい響の声をもつ男性歌手を総称。

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