【インタビュー】チョン・ミョンフンが語る、スカラ・フィルとの関係

スカラ・フィルとの関係は36年、他のいかなるオーケストラよりも長いのです〜マエストロ、チョン・ミョンフンは語る

 日本では東京フィルハーモニー交響楽団名誉音楽監督としてお馴染みの韓国人マエストロ、チョン・ミョンフンが第30回宮崎国際音楽祭に出演中の5月中旬、オペラの殿堂ミラノ・スカラ座の次期音楽監督に決まったというビッグニュースの主人公となった。

 今年(2025年)9月には名誉指揮者の称号を持つミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団との来日が早くから予定されていたが、歌劇場全体のシェフに内定し、ツアーの注目度はさらに上がった。宮崎国際音楽祭のご好意によりスカラ座全体、さらにフィルハーモニーとの関係について、短時間ながらも直接お話をうかがうことができた。

©Silvia Lelli

――先ずはスカラ座フィルとの関係をご説明ください。

「最初に指揮したのは1989年です。私がバスティーユのパリ国立歌劇場の音楽監督に就いたのと同年なので、はっきりと覚えています。世界数多くのオーケストラと共演してきた中でも、36年間の切れ目ない関係は最長です。出会った瞬間から特別な結びつきを直感、お互いを非常によく理解できる特別な関係へと発展してきました。最近は世代交代が進んでいますが、若いメンバーには『もし私の言うことを理解できなくても問題ない。君たちのご両親がよく理解してきてくれたのだから』と冗談めかして伝えるほど、私にとってはbest friend(最良の友)と呼べる存在になりました」

 

――基本は「歌劇場管弦楽団」ですか?

「ウィーン国立歌劇場管弦楽団とウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の関係にも一脈通じており、フルタイムでスカラ座のオペラ上演のピットに入りながら、強い独立心を維持しています。あくまでオペラが基本、フィルハーモニーはエキストラ(追加部分)の活動にもかかわらず、個性あふれるプログロミングを組み、国外ツアーへも積極的に出かけるのです。1日2回のリハーサルは当たり前、時には朝昼晩3回のスケジュールをこなしています」

 

――音の特徴(サウンド・アイデンティティー)はどのようなものでしょうか?

「イタリア音楽は圧倒的にオペラが主役で、交響曲のレパートリーはとても限られますから、コンサートではドイツ=オーストリアやロシア&東欧の作品も幅広く手がけます。しかしながら、基本はオペラのオーケストラなので特別な音楽のクオリティーが備わり、とても美しく歌うのです。特に第1ヴァイオリンの歌心は素晴らしい! ウィーン・フィルやベルリン・フィルが圧倒的なパワーを発揮するのに対し、スカラ座フィルは人間の歌う声に近いサウンドを特徴としており、これは完全に私の好みと合致します」

 

――日本ツアーの曲目、メインの交響曲はロシアのチャイコフスキー(第6番《悲愴》)とブラームス(第4番)ですが、これはマエストロの希望ですか? 両プログラムともピアノのソリストは藤田真央さんが務めます。

「ツアーに限らず、私がスカラ座フィルで指揮する曲目はすべて話し合いが基本、決定はオーケストラ側に委ねています。藤田真央さんとは初めてですが、テレビで彼が独奏するピアノ協奏曲を視聴し、真の才能にあふれた音楽家と確信したので、共演をとても楽しみにしています」

 

――スカラ座とヴェネチアのフェニーチェ座、東京フィルは「マエストロ・チョンが絶対にキャンセルしない世界3つの団体だ」と言われています。

「私はこれまで全ての経験を通じ、それぞれとの結びつきをとても強く、大事にしてきました。現在は極めて少ない数のオーケストラとしか仕事をしていません。コミュニケーションに桁外れに膨大な時間をかける点でプロフェッショナルとはいえず、悪い指揮者なのかもしれません。私にとって音楽を『描く(describe)』のは非常に難しい作業ですし、オーケストラが指揮者のタクトにだけ合わせて弾くのも『よし』としません。コミュニケーションの基本は、深い理解と忍耐にあります。トップクラスの楽団でも、浅い理解と忍耐のなさで数多くの仕事をこなす悪例がいっぱいあるのは残念です。私は計画を立てるのも苦手なので、ますます悪い指揮者なのかもしれませんが(笑)、この3団体とはじっくりと時間をかけ、良好な関係を築いてきました。新星日本交響楽団(2001年に東京フィルと合併)との初共演は1999年でしたから、もう26年のお付き合いです。東京フィルは今や私の日本の家族(family)であり、日本にいる間は可能な限り、東京フィルのために時間を割きたいと考えています」

 

――韓国とイタリアの間には半島、唐辛子、ニンニクだけでなく多くの共通点があり、韓国人には居心地の良い場所だと聞いています。

「私のイタリア愛も深いですよ。イタリアで最初の仕事は1982年、5年後の87年にはフィレンツェ歌劇場(現フィレンツェ五月音楽祭劇場)の首席客演指揮者へ就任しました。イタリアと韓国は、食べ物や家族のあり方など多くの点を共有しています。韓国の釜山で2027年に完成する予定の新しいオペラハウスでは、総裁格のポストに就くことが決まっていますが、私の音楽劇への深い傾倒を示すため、メインの劇場は『テアトロ・ヴェルディ』と命名、アジアにおけるイタリア歌劇の殿堂を目指しています」

 

――最後に、スカラ座音楽監督としての初仕事を教えてください。

「スカラ座のシーズン幕開けはミラノの守護聖人である聖アンブロシウスの日、毎年12月7日と決まっています。私の監督としての初仕事も、2026年12月7日です。新しい総裁のフォルトゥナート・オルトンビーナはヴェルディを専門とする音楽学者であり、フェニーチェ座でも数多くの上演を一緒に手がけてきました。そろってミラノで始める最初の仕事には今のところ、ヴェルディの《オテロ》が良いかなと考えています」

 

――お忙しいところ、貴重な情報をありがとうございました。

協力:宮崎国際音楽祭/株式会社AMATI
取材・翻訳・執筆=池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎
https://www.iketakuhonpo.com/

 

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チョン・ミョンフン指揮ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ:藤田真央

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