カウンターテナー ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキ インタヴュー

岸 純信(オペラ研究家)

 

カウンターテナーの神秘的な声音は、この半世紀で広く親しまれるようになった。成人男性が放つその幻想的な音色は、いわば、俗世界から離れた境地に人を誘う「儚げな燦めき」なのかもしれない。

 「有難うございます!そんな風に言ってくれて嬉しいです!」

 いま、欧米が注目する新星カウンターテナー、ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキは、ポーランド出身。声量豊かで演技にも長け、有名ブランドのモデルを務めるほど容姿も優れているのでオペラ界から引っ張りだこだが、それに加えて彼は、母国のブレイクダンス・コンクールでも優勝したという踊りの才能を有する人。いわば、二物も三物も天から与えられたという、稀有の存在なのだ。

©Jiyang Chen

 「ただ一言、『親に感謝!』です。アハハ!」

 オルリンスキは屈託なく笑うが、その陰で、人一倍努力を積んでいることは間違いない。まずは、持ち声の個性について、自身で語ってもらおう。

 「カウンターテナーとは、最も簡単に纏めると、ファルセットの技(日本語では『裏声』)を使って歌う男性歌手です。普段は2本ある声帯の全体が動きますが、カウンターテナーが歌うときは、声帯の『本当に端っこの部分』だけを使います。となると、空気が出る隙間が非常に狭くなり、結果として、ボーイソプラノ的に声が高くなるんです」。

 なるほど。でもそれは、一部の限られた人だけが、生まれつき持てる技なのか?

 「いやいや!男ならみな、熱心に練習すればこうした声は出せますよ。ただ、多くの方が『聴いてみたい』と思って下さる音色になるかどうか…だから、僕としてはひたすら、両親に感謝!この喉に生んでくれて本当に有難う、とね」。

©Jiyang Chen

 お父さんはグラフィック・デザイナーで画家、お母さんも画家で彫刻家だそう。

「祖父は建築家で兄も美術家です。でも、僕一人、子供の頃から歌や踊りが大好きで、合唱団に入り、ダンススクールに通っているうちに、いまの自分が出来上がりました」。

 このオルリンスキが4月に日本で初のコンサートを開催。世界で話題沸騰中の歌声が、ついに日本でも聴けるのだ。

「実は、2025年にプライヴェートで来日し、ガールフレンドと一緒に東京、大阪、広島など回りました。東京に着いたその日に、いきなり20kmも歩き回ったんだ。面白くて面白くて(笑)。そして、京都で婚約したんです!だから、また日本に来るのがとても楽しみです!」

それはおめでとう!では、日本でどんな曲を披露してくれるのだろう?

©Michael Sharkey

「前半は、ヘンデルのオペラ・アリアや、英国のパーセルの歌曲〈バラの花よりも甘く〉といった『バロック期の美しい調べ』をお届けします。18世紀ならカストラート(去勢歌手)のレパートリーですが、現代ではカウンターテナーが主に歌いますね。親友のピアニスト、ミハル・ビエルの伴奏だから心強いです!一方、後半ではポーランド語の歌曲をお聴き頂きます。ビエルと一緒にプログラムを練りました。ポーランド人ならみな知る早逝の作曲家カルウォーヴィチの歌曲も歌いますが、シェイクスピアの詩をポーランド語訳で作曲したバイルトの《4つの愛のソネット》にもご注目下さい! 現代曲ですがネオ・クラシック(『昔に戻ってみよう』というコンセプト)で作られたので、それは聴きやすいんです!」

確かに。バイルトの幻想的な曲は、インタヴュアーも密かに推す名作である。ところで、最近のオルリンスキといえば、パリ・オリンピックの開会式で披露した「歌とダンスが合体するシーン」でも注目の的。

「オリンピックの時は本当に、自分の出番以外は何も知らされず、発声練習をしていたら大画面にレディ・ガガが映っていてびっくりしたんですよ(笑)。自分のコンサートでは基本、曲調を守ってじっと立って歌うんですが、皆さんがアンコールを求めて下さったなら、何かが起きるかも(笑)。ステージをぜひお楽しみに!」

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