ウィーン放送響2024年日本ツアー 角野隼斗氏インタビュー [後編]
世界の名だたる楽団で活躍中の指揮者マリン・オルソップが首席指揮者を務めるウィーン放送交響楽団。8年ぶりに待望の来日ツアーを行います。今や現代最高の女性指揮者と名高い彼女がソリストに熱望したのは、大人気ピアニスト角野隼斗さん。2022年ポーランド国立放送響日本ツアーでの共演に続き早くも実現したオルソップとの“再会”を前に、最近のご様子とツアーへの思いを伺いました。今回は後編をお届けします。(聞き手・文:道下京子)
前編はこちらから:ウィーン放送響2024年日本ツアー 角野隼斗氏インタビュー [前編]
ピアノ協奏曲 「戴冠式」について
――モーツァルト《ピアノ協奏曲「戴冠式」》ついて。この曲は、共演するオーケストラ側からのリクエストだそうですね。
モーツァルトをウィーン放送響と演奏できるのは、とても大きなことですし、僕自身もこの曲はとても好きです。僕がこの協奏曲を初めて演奏したのは昨年で、2回弾きました。それまで、モーツァルトの協奏曲を人前で演奏する機会はほとんどありませんでした。モーツァルトに対して、自分はそんなに距離が近くなかったというわけです。昨年弾いてみて、さらにその魅力に気づいたという感じです。この曲の特徴は、左手がほとんど書かれていないのです。これは、モーツァルトが作って彼自身が弾く…つまり、彼の中では何を弾けばいいか完全にわかっていたわけですね。のちに楽譜が出版される時、左手を付け加えはしたものの、モーツァルトがどう弾いていたかについては、ほとんどわかっていません。裏を返すと、我々がモーツァルトをどう弾いていたかを想像する余地はあるわけです。その自由度が、面白いなと思います。そのような点が、普段から即興や作編曲をやっている自分にとっては、面白いと感じる部分ですね。
――今年の角野さんのコンサート・ツアーでは、モーツァルトの《ピアノ・ソナタ》K.331をプログラムの軸のひとつとしていましたが、そこにも結びつきますね。
明らかに繋がっています。モーツァルトを弾きたいという欲求は、最近、高まりつつありました。そのツアーには、鍵盤楽器の多様性と面白さを伝えたいというコンセプトがあります。その中で、モーツァルトは自分にとって重要な位置にあります。例えば、ソナタではリピート(繰り返し)します。《ピアノ・ソナタ》K.331は特殊で、第1楽章は変奏曲形式です。それぞれの変奏をリピートすると、同じことが何回も繰り返されます。2回目の繰り返しでは、自由に装飾音を加えていました。そこに感じる自由度、その自由度に関する面白さは、「戴冠式」にも通じますね。
――「戴冠式」でも、いろいろやってみようとお考えですか?
「戴冠式」にはカデンツァは残されていないですし、そこに対しての自由度もある。カデンツァをどうするかは、まだ僕も何とも言えません。多分、だんだん変わっていくと思いますね…10公演ぐらいありますから。その場その場での即興を交えながら、新たなチャレンジを毎度の公演で入れていき、それをオーケストラの人の反応をうかがいながらやっていこうかなと。ウィーンの団員に「そんなのモーツァルトじゃないよ」って怒られたらどうしよう(笑)
――今回の全国ツアーは11公演ありますから、11通りの演奏ができますね!
そうですね。僕もオーケストラのメンバーたちも、毎回同じことはやりたくないと思うので!同じ曲をずっと演奏し続けるのは、毎回、最高のものを作りながらも、そのフレッシュさをもってどのように挑んでいけるかという、心の中の戦いだと思うのです。それは、生で演奏する一回きりの演奏の醍醐味です。そういうところを大切にしていきたいですね。
――ありがとうございました!
(聞き手・文:道下京子)
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