ラハフ・シャニ インタビュー
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(IPO)が9年振りに来日する。今回、IPOを率いるのは、2020年に音楽監督に就任したラハフ・シャニ。1989年、テルアビブ生まれの彼は、幼い頃からIPOの演奏に親しんできた。現在は、IPOのほか、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を兼務するなど、世界が最も注目する若手指揮者の一人である。
彼は、2013年にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝し、IPOにデビューする機会を得た。
「初共演は夢が叶ったすごい瞬間でした。マーラーの交響曲第1番などを指揮して、新しい時代が始まるという感覚を持ちました」
そして、2020年、ズービン・メータの後継として、IPOの音楽監督に就任した。
「IPOは、1969年から50年間、メータが音楽監督を務めた、彼のオーケストラでした。今は、若い新しいメンバーが入り、柔軟に変化に対応でき、お互いのコミュニケーションを通して共通のやり方を見出し、芸術的な意味で私のオーケストラといえるようになりました」
ちょうど彼が音楽監督に就任した2020年、世界はコロナ禍に巻き込まれた。しかし、シャニは、「我々はコロナ禍を通してより良いオーケストラになることができた」という。
「コロナ禍で演奏会ができませんでしたが、毎日のように会い、レコ―ディングを行いました。また、レパートリーの拡大や深化に努めました。たとえば、イスラエルの音楽を手掛けたほか、ソーシャル・ディスタンスの要求から小編成のレパートリーにも取り組みました。イスラエル人には、困難に遭うと、それに抗い、克服し、良いものにするという人生観や文化があります。このオーケストラにもその精神があります」
彼らは、祖国の困難を乗り越えて、また日本にやってくる。
「IPOは、イスラエルの文化・芸術を代表する、誇るべきオーケストラです。1936年にヨーロッパで人種差別を受けた移民たちによって創設されました。その遺産を受け継ぐ彼らの演奏は、単なるエンターテインメントではありません。日本のみなさまと深く人間的につながりたいと思っています」
そして彼らが日本に持って来る作品はベートーヴェン。
「IPOは特筆すべきベートーヴェン演奏をします。交響曲第3番『英雄』は音楽史上、革命的な作品であり、交響曲第7番はIPOのトレード・マークのような作品です。IPOは様々な名指揮者と演奏してきましたが、新しい音楽監督である私とのベートーヴェンを是非聴いていただきたいと思います」
取材・文 山田治生(音楽評論家)