【インタビュー】エストニア国立男声合唱団来日記念 堅田優衣さん

「生かされている」ことを喜ぶために音楽をしたい〜堅田優衣さんインタビュー

多くの才能が活躍する合唱音楽の世界で、指揮と作曲を両輪に個性豊かな活動を繰り広げている堅田優衣さん。この2月に来日するエストニア国立男声合唱団のコンサートでは、最新作の《てまんかい−奄美の八月踊り》が演奏される。これまでのキャリアや創作についてうかがった。

聞き手/加藤浩子(音楽物書き)

エストニア国立男声合唱団©JaanKrivel

―合唱の指揮、作曲を志したきっかけを教えてください。

堅田(以下K):幼い頃からピアノをやっていて、中学3年の時に合唱指揮者になろうと決めました。人の良いところや音楽そのものをどう伝えるかに興味があり、学校行事などで人をまとめるのも得意だったので。それで音楽高校で作曲を専攻し、副科でピアノ、指揮、歌を学びました。

―留学先にフィンランドを選ばれたのは?

K:最初はハンガリーに行こうと思っていたので、語学の準備などもしていました。そんな時に友人に誘われてフィンランドに旅行することになったのですが、その直前にたまたまシベリウスアカデミーの校長先生が来日して、講演会があったんですね。それを聴講に行って、フィンランドに行くと伝えたら、学校を訪問するように言われ、指揮の授業も見せてもらえました。それで受験をし、合格したので留学することになったのです。学費や教育プログラムなど総合的に考えて、フィンランドを選びました。

 アカデミーの指揮科の授業はとても実践的で、学校がプロ歌手と契約してアカデミーの合唱団を作り、自分がその合唱団に対してどれだけアプローチできるかという訓練を受けました。プロの歌手から色々な指摘を受け、何を準備すべきかなど実践で学んだので、曲を書く時も役に立っていると思います。

パシ・ヒョッキさん、委嘱作曲家の
皆さんと(右端が堅田さん)

―北欧は合唱が盛んというイメージがあります。

K:そうですね。歴史的な背景もあり、自分たちの言語や音楽に対する誇りを持って、歌で連帯することがアイデンティティになっている気がします。フィンランドは、アマチュア合唱団のレベルが高く、新作の委嘱も盛んで、政府や芸術団体から助成金も出るので新しい曲が生まれやすいと思います。

 北欧は「空間づくり」を重視しているので、メロディよりハーモニーが重要ですね。旋律に言葉を乗せるより、響きを考えて音楽が作られていると感じます。合唱は基本アカペラですしね。

―エストニア国立男声合唱団のコンサートで演奏される《てまんかい−奄美の八月踊り》は、ヘルシンキ大学男声合唱団からの委嘱作品です。委嘱のきっかけと、「奄美」がテーマになった理由を教えてください。

K :指揮者のパシ・ヒョッキさんが私の曲を聴いて興味を持ってくださったことがきっかけです。パシさんは私の指揮の恩師であるマッティ・ヒョッキさんの息子さんです。合唱団創設 140周年記念の作品を委嘱されたのですが、その時に言われたのが、フィンランドは男声合唱の国で、男性性を前面に出してきたが、この機会に女性の作曲家に、男性に歌って欲しい曲、そして私にとって重要なトピックを扱った曲を作曲してほしいということでした。

 フィンランドで日本人の自分が強みになるものを考えた時、日本の民謡は外国人にとても喜ばれるし、自信を持てると気づきました。帰国後に興味を持ったテーマの一つが日本の南方の島々の祭事で、特に奄美や琉球では女性の神性を大事にしていて、「ノロ」という女性の祭司が祭を仕切ります。女性が島を治めるということが興味深かったので、奄美をテーマにすることに決めました。

奄美の夕日

―フィンランドに行かれたことで、作曲に対するアプローチは変わりましたか?

K:作品と音との関係性がわかってきた部分はあります。学生の頃は技法的なことを優先していたのですが、フィンランド体験を通して、日本人の自分が伝えたいことを伝わるように、シンプルで歌いやすい、サウンドとして効果的な曲を書きたいと思うようになりました。相手や状況に合わせてテーマ設定をし、その合唱団が上手に自分たちの良さを出せるような作品を心がけています。

―ご自分でも合唱団を結成して活動されていますね。

K:合唱団とは、「声」をどういうふうに使えば合唱として魅力が増すか試しながら、コンサートを作っています。人と一緒に音楽を作りたいという希望があるので、指揮と作曲は両輪で考えています。指揮は体をどう使うかが重要なので、作曲をする時にも身体感覚を使って、歌い手や聴衆がどう感じるかを想像しながら創作しています。

 体と声の関係で言えば、全身がリラックスして呼吸が自由にできる状態が一番声が出やすいです。趣味でやっているヨガやコンテンポラリーダンスの経験が役に立っています。

―今後の展開について教えてください。

K:これまで通り、その土地の民族とか、医師の中村哲さんにインスパイアされた《Dona nobis pacem》のように、あまり知られていない文化や、信念を持って活動をしている人をテーマに曲を作りたいです。自分の合唱団では、困難な今の時代に合唱というツールを使って、神様や自然に自分たちが生かされていることを喜ぶような空間やコンサートを作っていきたい。お世話になったフィンランドの音楽を広めるのも大切なミッションですね。

全日本合唱連盟発行ハーモニーNo.211(冬号)転載

 

▼公演情報はこちら!

エストニア国立男声合唱団

メールマガジン登録

公演情報やアーティストの最新情報などをいち早くお知らせいたします。
下記の「メルマガ登録はこちら」ボタンから登録してください。