【インタビュー&コメント動画】ウィーン放送交響楽団日本人楽団員森武大和氏インタビュー

近年、アジア人の演奏技術の成熟は著しく、世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者も少なくありません。ウィーン放送交響楽団で副首席コントラバス奏者を務める森武大和さんもその一人。数々のオーケストラを経験した森武さんだからこそ感じるウィーン放送響の特徴や、楽団の首席指揮者オルソップ氏について語ってくださいました。

 

―ウィーン放送交響楽団について教えてください。
 オーストリア国営放送(ORF)に所属する、オーストリアで唯一の放送オーケストラで、仕事場も放送局の中にあります。日本でいうところのN響のような立ち位置で、オーケストラの演奏会もラジオやテレビで放送されています。
 保守的なウィーンの中では風通しの良いリベラルな気質で、メンバーも放送局の方々も皆温かい人ばかりでとても気に入っていますし、仕事場に行くのがいつも楽しみです。

―ウィーン放送交響楽団はどのようなオーケストラでしょうか。ウィーンの楽団の中でも違いを感じますか?
 もう全然違います。ウィーン放送響はもともと、近現代のレパートリーも演奏できるように設立されたオーケストラなので、ウィーンの楽団の中では最も機能的です。ウィーン・フィルやウィーン交響楽団はメロディーなどの横のラインを朗々と演奏するのが得意ですし、それに比べて僕らウィーン放送響は縦のラインやタイミングを合わせるのが秀でて上手だと思います。オペラ演奏など、残響の少ない劇場で演奏するときはアンサンブルが綺麗に揃いすぎて逆に響きが少なく聞こえる時もあります。オペラでは弦楽器が縦線を微妙にずらして演奏すると響きが豊かになる事もあります。例えていうなら、レコーディングでディレイエフェクト(やまびこ)を掛けて音色を豊かにすることがありますが、それをオーケストラが自分たちで作ってるような感覚ですね。僕らはそういう風に縦線をずらすことにあまり慣れていないのですが、でもその分、縦線をバッチリ合わせるような機能性が生きる作品の演奏はピカイチです。
 ドイツ語圏では今まで5つのオーケストラに所属した経験がありますが、例えばドレスデン国立歌劇場管弦楽団は前者、バイエルン放送響は後者のように感じました。縦線が合うのはある意味、放送オケの特徴なのかもしれませんね。

―首席指揮者であるマリン・オルソップ氏はどんな人ですか?
 人間的にとっても温かい人だと感じます。先日もちょうど定期演奏会があり、彼女の指揮でマーラーの交響曲第9番を演奏しました。マーラーは気をつけないと色々なモチーフがぴょんぴょん飛び出して聞こえてしまうことがあるんですが、彼女の指揮の場合それが無く、楽章のつながりもきちんとあって自然に感じます。僕らはウィーンの楽団なので楽員のマーラーに対する思い入れは強く、初めての共演ではアメリカ人の彼女に対して「マーラーをどう振るのだろう」という好奇の空気があったのですが、予想を何倍も上回る演奏となり、その空気が嬉しい驚きに変わりました。
 また、オルソップさんはリハーサルがコンパクトで上手です。こうしてほしい、ということを口で説明することはあってもどちらかというと多くなく、その代わりしっかり指揮で示してくれます。懐が大きく度胸もあって、大舞台に立っても「大丈夫だから私を信じてついてきてね」という優しくて強い眼差しでオーケストラをぐいぐい牽引してくれます。男まさりに振ろうとすることもなく、彼女らしく自然体のままオーケストラとの信頼関係を築ける類まれな人だと思います。

―森武さんはどのような経緯でウィーン放送響に入団されたのでしょうか。
 僕は高校の吹奏楽部でコントラバスを始めました。東京芸大を経てミュンヘンに留学し、バイエルン放送響のオーケストラアカデミーに入りました。ドイツ語圏では40回以上オーディションを受け、たまたま入れたのがオーストリアの団体でした。ウィーン放送響も、実はどんなオーケストラなのかも知らずにオーディションを受けましたしね。気楽に受けたのが良かったのかもしれませんが、今ではずっと居たいと思うほど大好きなオーケストラです。

―楽員の信頼も厚い首席指揮者オルソップと奏でるベートーヴェン。お客様に期待してほしいことはありますか?
 僕らは普段幅広いレパートリーを演奏しているので、モーツァルトやベートーヴェンなどの『定番曲』は日本のオーケストラに比べて演奏回数が少ない傾向にあります。なので逆に「英雄」や「ベト7」を演奏できることが素直にとても楽しみですし、フレッシュで勢いがあり、喜びに満ちた演奏になるのではと思います。ぜひ会場にお越しください!

―森武さん、ありがとうございました!

 

森武大和(もりたけ・やまと)

福岡県出身。15歳からコントラバスを始める。東京藝術大学を卒業後ミュンヘン音楽大学マイスタークラス及びブルックナー音楽大学マスタークラスに学び、満場一致の最高点で卒業。コントラバス奏者としての活動とともにエレクトリックベースを独学で学び、ソリストとしてデニス・ラッセル・デイヴィス、リンツ・ブルックナー管弦楽団と共演し、ウィーン楽友協会大ホールにデビューする。山本修、永島義男、西田直文、ハインリッヒ・ブラウン、アントン・シャッヘンホーファー、ヘルベルト・マイヤーの各氏に師事。ヤマハ留学支援制度、ユー国際文化交流支援基金奨学生。バイエルン放送交響楽団アカデミー生、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団契約団員、2012〜2018年リンツ・ブルックナー管弦楽団正団員ならび同団契約首席奏者を経て、2018年よりウィーン放送交響楽団へ入団し、試用期間を満票で合格し、現在は副首席奏者を務めている。ウィーンを始めヨーロッパ各地でリサイタルを開催し好評を博している他、オーストリア各地で災害被災者や小児がん、難民支援などの慈善コンサートを定期的に主催している。音楽学にも積極的に取り組んでおり、発表したコントラバスの調弦の歴史に関する論文でオーストリア国営放送にインタビューを受ける。チェコ・シマンドル国際コントラバスコンクール第1位並びフッカ特別賞受賞。上オーストリア州立音楽学校教師。

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