【インタビュー】エマニュエル・パユ
with ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団

ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団、
そしてリーダー ダニエル・ドッズとの共演にパユが抱く期待 —————

名実ともにフルート界のスーパースター、エマニュエル・パユ。2025年に彼はのべ4度の機会にわたって来日を果たした。そのうち2回がベルリン・フィルのツアーというのも特筆ものなら、全国各地で開いた室内楽やリサイタルの数も例年の域を超えている。我が国の音楽ファンにとっては恵まれた1年だった。

ⒸAnoush Abrar

 

「初めて東京でリサイタルを開いたのが1992年。それから30年以上、聴衆の皆さんと親密な空間を共有できたと実感します。様々な土地に次々とオープンする、音響も優れたコンサート・ホールの記憶と一緒に……。個々の演奏会のプロジェクトが、私にとってはどれもセレブレーションに等しいものでした」

 そう語るパユが2026年3月22日、横浜みなとみらいホールのステージに立つ。精力的に来日公演をこなす彼としては少々意外なことに、首都圏でコンチェルトを披露するのは2023年9月以来となる。ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団が行なう来日ツアー全9公演のうち、この日だけに登場を果たすのだ(他の8公演のソリストは五嶋みどり)。

 

「彼らが、その前身にあたるルツェルン祝祭弦楽合奏団を名乗っていた時代から知っています。1989年に私がルツェルン音楽祭にデビューしたとき、楽団の創設者ルドルフ・バウムガルトナーの指揮でヴィヴァルディの協奏曲を吹いたのです。当時は弦楽合奏のためのレパートリーを中心に、もっぱらバロックから古典派を手がけていましたね。そこへ2012年にダニエル・ドッズがコンサート・マスターと芸術監督に就任してから、編成も拡充しながら取り組む演目をロマン派や20世紀作品にまで広げ、音楽的アプローチも格段に柔軟性を増しています。ソリストとしても活躍するドッズはオーストラリア出身ですが、ヴァイオリンを修めた場所がルツェルン。そこでバウムガルトナーの薫陶も受けています。この団体の未来を切り開く上でも最高の人材ですね」

 ちなみにその兄スタンリー・ドッズもヴァイオリニストで、ベルリン・フィルに在籍経験も持ち、同オーケストラのメディア&財団理事会に所属していた人物(2014〜2025年にはベルリン交響楽団の首席指揮者)。ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールで、スタンリーがパユをインタビューした動画も視聴できる。そんな“ベルリン・コネクション”を持つ弟ダニエルが、今回のコラボレーションの要をなす人物だ。

「指揮者なしで演奏するので、コンサートマスターのリードは当然ながら重要です。後半に置かれたベートーヴェンの《英雄交響曲》と、編成面や音楽的内容のバランスも考慮して組んだプログラムが、ブゾーニの《ディヴェルティメント》とモーツァルトのフルート協奏曲第1番。前者は不思議と演奏の機会に恵まれませんが、私はCDに録音しているし、ベルリン・フィルの定期ではバレンボイムの指揮で吹いています。作品の魅力を再認識できる良い機会でしょう。しかしオーケストラとのアンサンブルは本当に難しい!私の演奏動画をドッズと一緒に見ながら“本当に可能だろうか?”と納得のいくまで意見を交わしたものです」

 ブゾーニからモーツァルトを経てベートーヴェンへ至る過程も、ひとつの演奏会の流れとして“説得力を持つ”とパユは確信を抱く。

「私が登場する前半2曲に共通する要素が、伸びやかな祝祭性。それが《英雄交響曲》と相乗効果を生むでしょう。そして名は体を表すといいますが、ドッズの率いるオーケストラに感じるのは、開かれた精神と共に音楽する喜びを漲らせた、つまり祝祭的なDNAの存在です。それが“オマツリ”としての空間を作り出す。これもまたひとつのセレブレーションとして、私も今から楽しみでなりません」

取材・文:木幡一誠

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