【訃報】イヴリー・ギトリス(ヴァイオリニスト)
ヴァイオリニストのイヴリー・ギトリス氏が2020年12月24日、フランス・パリで亡くなりました。享年98歳、偉大な芸術家の訃報に接し、心より哀悼の意を表します。
ギトリス氏は1922年8月25日、イスラエルのハイファでユダヤ人の両親のもとに生まれました。フランスに留学し、12歳でパリ音楽院を首席で卒業。その後もエネスコ、ティボー、フレッシュ等、歴史上の大ヴァイオリニストの下で研鑽を積みました。1951年のロン・ティボー国際コンクールでの入賞をきっかけに国際的な演奏活動を始め、カザルス、ハイフェッツ、ゼルキン等歴史上の名匠をはじめ、アルゲリッチ、バレンボイム、メータ、インバル、デュトワ、ニューヨーク・フィル、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル等、数多くの一流演奏家やオーケストラと共演を行い「20世紀最後の巨匠」と称されました。使用楽器は1713年製ストラディヴァリウス‘Sancy’。ギトリス・トーンと呼ばれる独特の音色、個性的な演奏で人気を博しましたが、19世紀の演奏様式、音楽観を伝える希少な演奏家でした。
初来日は1980年。その後毎年のように日本ツアーを行い、ソロ・リサイタルを開催すると共にNHK交響楽団をはじめとした各地のオーケストラに定期的に招聘されました。「日本は第二の故郷」と公言するなど大の親日家でしたが、最後の来日は2017年5月。氏が熱望した久々の別府アルゲリッチ音楽祭でのアルゲリッチとの共演の他、東京、高崎等でリサイタルを行っています。
レコーディングの経歴も豊富で、日本ではアルゲリッチ音楽祭ライヴ・ソナタ集、名盤「24のカプリース」CD、「伝説のリサイタル・2013年東京公演ライブ映像」DVDほか、最近では盟友岩崎淑との「ギトリス・ライヴ・イン・ジャパン’82」を2018年に復刻リリースしています。
旧ソ連でイスラエル人演奏家として初めてのコンサートを1955年に行ったギトリス氏は、イスラエルとパレスチナの和平支持者でもあり、その後ユネスコ親善大使として中東、アフリカ等でも活動しています。2011年には、東日本大震災直後の5月に急遽単身で来日し、仙台・石巻の避難所や学校にて慰問演奏を行うとともに、以来毎年東北を訪れて被災地の人たちを励ますなど、その活動はステージだけにとどまらず、世界中のあらゆる人たちに愛と平和のメッセージを送り続けました。
その活動を通じて私たちに感動と勇気を与えてくれた氏の功績をここに称えると共に、重ねて心より御冥福をお祈り申し上げます。
株式会社テンポプリモ
代表取締役 中村 聡武